日本について見ると最新では2020年末の資産・負債が示されており、連結ベースのPSBSでは、日本は純負債ではなく、純資産48兆円(名目GDP比9%)と高市氏が述べた通りだ。
ところで、日本の財務省も「国の財務書類」としてIMFのPSBS同様に一般政府部門に政府系機関まで含めた連結ベースの資産・負債を年度ベースで作成、開示している。これで2020年3月末の連結貸借対照表(資産・負債表)を見ると、資産・負債差額は523兆円の純負債である。
大きな乖(かい)離が生じている最大の項目は、固定資産残高である。IMFデータでは983兆円(2020年末、固定資産と土地の合計)だが、財務省データでは土地を含む有形固定資産は277兆円(2020年3月末)、280兆円(2021年度末)と約700兆円も乖離している。巨額な乖離の原因は、日本の財務省データの固定資産は取得原価ベースで計上されており、IMFデータは何かしらの「時価ベース推計値」が使われているから
財務省がIMFに報告している一般政府部門の純負債は、金融資産のうち「通貨・預金、負債証券等」以外の資産項目の大半が、ごっそり対象外になっている
その結果、財務省が「日本の財政関係資料」に記載し、かつIMFに報告している純負債が、日銀が公表している実際の資産・負債の差額と大きく乖離する結果になっている。純金融資産から対象外になっていると思われる大きな項目は株式214兆円、その他持分126兆円(2023年末時点)などである。
結論をまとめると、日本の一般政府部門の純負債が絶対額でもGDP比率でも、2020年以降大きく改善している最大の要因は、公的年金運用のポートフォリオ見直しによる資産価値の増加である。ただし、それは将来の年金給付義務(負債)を見合いにした資産であり、決して純資産と見なすことはできない。
資産価値の増加の最大の要因は外貨準備(約1.2兆ドル)の円換算額が円安で増加していることだ。従って、今後円高に振れる場合にはマイナスに転じ得る。一方、名目GDP伸び率は実質GDP伸び率とインフレ率の合計であり、インフレ目標の2%程度のインフレを伴う経済成長が持続し、国債の実質マイナス金利が持続する限り、中央政府債務のGDP比率の低下に寄与する。